エンスウィートへの疑問解消します
不動産といっても、N氏の仕事は個人相手の周旋ではない。
時価数十億円もする事業用の大規模ビルを売買するのである。
高層のオフィスビルもあれば、居住用の高級フラット(日本でいえばマンション)に使うビルもある。
N氏は、イギリスの大手不動産会社に勤務しており、土地開発、ビルの建築企画、さらにはその販売まで幅広く携わっている。
しかし、ここのところ昼休みの時間にあまりによく顔を見るので、不思議に思って聞いてみた。
「Nさんの会社はこの近くでしたか?」「ええ、すぐそこのキングストリートですよ」「それにしても昼休みのたびによくお会いしますね」「毎日、私は昼飯を食べに、ここを通って自宅に帰るので」「ええ?お宅で昼飯を食べるのですか?どこに住んでおられるのでしたつけ?」「以前は、ロンドンの北に住んでいたのですが、三年前にこのあたりに越してきたのです」「今日も奥さんが料理を作って待っておられるのですね」「そうです。まあ、昼ですから、簡単なものしか作りませんが。それでは失礼」と手をあげて、N氏はそそくさと自宅に向かって帰って行った。
あまり奥さんを待たせてはいけないと思ったのだろう。
彼は不動産売買が専門だから、シティのどこにどのような物件があるか全ての情報をつかんでいる。
三年前、会社の近くに新しい椅麗なフラットが出来たので、いちはやく購入を決めた。
通勤時間は五分。
それも徒歩だから通勤費用はかからない。
イギリスでは通勤費用は会社負担でなく、自己負担だ。
それがない分だけでも、大変な節約になる。
それに、シティの真ん中だから、どこに行くにも交通の便はいい。
何よりも、日本の八○年代に似た不動産バブル気味のイギリスにあって、そうした好条件の環境にあるフラットは投資の対象としても最適だ。
私は、N氏が数年前に言っていたことを思い出した。
「Wさん、ロンドンの不動産の価格はこれからまだ上がりますよ。今のうちにひとつフラットでもお買いなさい」「ほら、あえて食べます」N氏は振り返って、背後に建っているこぎれいなクリーム色のビルを指差した。
そこなら、私も知っていた。
三年前に建設され、結構な値段で売り出きれた高級フラットだった。
「ほら、あそこです。あのフラットですよ。会社まで歩いて五分です。だから、昼飯は家に帰れます」「なるほど」「私はすでに郊外に家を持っていますから」「それはあなたの居住用の家でしょう。それとは別に投資のために買うのですよ。この国は日本と違って、住宅が足らないからといって、やたらに山を切り崩したり、緑地をつぶしたりはしない。そこがイギリスのいいところなのですが、おかげでロンドンは需給のアンバランスがなかなか解消されません。不動産の価格はまだ上がります。今、買っておいて五年も待てば、大変な利なるほど」と私は納得した。
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